歯科コラム
Column軽度~重度まで:歯周病の進行度別・治療の流れをやさしく解説
歯周病と診断されても、適切な治療の流れを理解すれば不安は軽減されます。
歯周病の治療は、まず精密な検査で進行度を把握することから始まります。
30代から歯周病のリスクは高まると言われており、早期発見・早期治療が重要です。
この記事では、軽度から重度までの進行度に応じた具体的な治療内容と、検査からメンテナンスまでの一連の流れを分かりやすく解説します。
まずは現状把握から!歯周病治療の第一歩は精密検査
歯周病治療を始めるにあたり、最初に行うのが口腔内の状態を正確に把握するための精密検査です。
この検査で歯周病の進行度を判断し、一人ひとりに合った治療計画を立てます。
検査の主な内容としては、歯周ポケットの深さを測る検査や、歯を支える骨の状態を確認するレントゲン撮影といった方法があります。
これらの結果をもとに、具体的な治療方針が決定されます。
歯周ポケットの深さを測って進行度をチェック
歯周ポケット検査は、プローブと呼ばれる目盛りの付いた細い器具を歯と歯ぐきの溝に挿入し、その深さを測定するものです。
健康な歯ぐきの場合、溝の深さは2mm程度ですが、歯周病が進行すると炎症によって歯周ポケットが深くなります。
一般的に、4mm以上で軽度の歯周病、6ミリ以上になると重度の歯周病と診断される指標となります。
この測定によって、歯周病の進行度を客観的に把握し、どの歯がどの程度悪化しているかを詳細に確認することができます。検査に痛みはほとんど伴いません。
レントゲン撮影で歯を支える骨の状態を確認
レントゲン撮影は歯周病治療において不可欠な検査です。
歯周病は歯を支える顎の骨(歯槽骨)を溶かしてしまう病気であり、レントゲン画像によって骨がどの程度失われているかを視覚的に確認できます。
歯周ポケットの深さだけでは判断できない骨の吸収状態を把握することで、より正確な診断が可能となります。
また、歯の根の状態や、歯ぐきに隠れて見えない虫歯の発見にも役立ちます。これらの情報をもとに、個々の歯に対する治療方針を決定し、総合的な治療計画を立てていきます。
【軽度の歯周病】歯周基本治療で改善を目指す
検査の結果、軽度の歯周病と診断された場合、まずは歯周基本治療から始めます。これは歯周病の原因であるプラークや歯石を取り除き、口腔内を清潔な環境に整えることを目的とした治療です。
ほとんどの場合、この基本治療を徹底的に行うことで症状の改善が見込めます。治療の柱となるのは、歯科衛生士による指導と専門的なクリーニングであり、患者自身のセルフケア向上も含まれます。
正しい歯磨き方法を身につけるプラークコントロール指導
歯周病の根本原因であるプラーク(歯垢)は、毎日の歯磨きで除去することが基本です。しかし、自己流の磨き方では磨き残しが多くなりがちです。
そのため、歯周基本治療では、歯科医師や歯科衛生士が一人ひとりの歯並びや口腔内の状態に合わせて、効果的な歯磨き方法を指導します。
このプラークコントロール指導では、歯ブラシの選び方や当て方、動かし方に加え、デンタルフロスや歯間ブラシといった補助清掃用具の正しい使い方も学びます。
正しいセルフケアの技術を習得し、日々の実践を継続することが、治療の成果を左右する重要な要素となります。
歯の表面に付着した歯石を徹底的に除去するスケーリング
スケーリングは、歯磨きでは取り除くことのできない歯石を除去する処置です。
歯石とは、プラークが唾液中のミネラルと結合して石灰化したもので、表面がザラザラしているため、さらにプラークが付着しやすくなる悪循環を生み出します。
この歯石除去には、スケーラーと呼ばれる専用の器具を使用し、超音波の振動で歯石を粉砕したり、手用の器具で細かく取り除いたりします。
主に歯ぐきよりも上の部分、つまり歯の表面に見えている歯石を取り除くことが目的です。これにより、歯の表面を滑らかにし、プラークが再付着しにくい環境を整えます。
歯周ポケットの奥深くの歯石を取り除くルートプレーニング
ルートプレーニングは、スケーリングだけでは除去しきれない歯周ポケットの奥深く、歯根(ルート)の表面に付着した歯石や汚染されたセメント質を取り除く処置です。
歯周病が進行すると、歯ぐきの下の見えない部分に歯石が溜まります。この歯石を除去し、歯根の表面を硬く滑らかにすることで、プラークの再付着を防ぎ、歯ぐきが再び歯根に引き締まって付着するのを促します。
この処置は歯ぐきの下を触るため、痛みを伴うことがあり、通常は局所麻酔を使用して行われます。数回に分けて、口腔内をブロックごとに処置を進めるのが一般的です。
治療効果を判定する「再評価」で次のステップへ
歯周基本治療が一通り終わると、治療効果を判定するための「再評価」を行います。
歯周病の治療が長い、何回も通院が必要と感じられるのは、このように段階を踏んで歯ぐきの改善を待つ期間が必要だからです。
再評価では、初診時と同様に歯周ポケットの深さの測定や歯ぐきからの出血の有無などを再度検査し、基本治療によってどの程度症状が改善したかを確認します。この結果をもとに、次の治療ステップを決定します。
基本治療で歯ぐきの状態がどれだけ改善したかを確認
再評価では、初診時と同じ項目の検査を再度実施し、データを比較検討します。
具体的には、歯周ポケットの深さが浅くなっているか、歯磨きや検査時の出血が減少・消失しているか、歯の動揺(ぐらつき)が改善しているかなどを詳細にチェックします。この評価により、歯周基本治療の効果を客観的に判断することが可能です。
多くの軽度から中等度の歯周病は、この段階で改善が見られ、メンテナンスへと移行します。
しかし、依然として深い歯周ポケットが残っている部位がある場合は、次の治療の流れとして歯周外科治療が検討されます。
【中度~重度の歯周病】歯周外科治療で根本的な改善を
歯周基本治療を行っても、深い歯周ポケットが改善されない場合や、歯を支える骨の破壊が著しい中度から重度の歯周病に対しては、歯周外科治療が選択肢となります。
これは、歯ぐきに麻酔をして外科的な処置を行うことで、基本治療では取り切れなかった歯周ポケットの奥深くにある歯石や感染組織を直接除去する方法です。症状に応じて、フラップ手術や歯周組織再生療法など、いくつかの手術方法があります。
歯ぐきを切開して歯石を直接取り除くフラップ手術
フラップ手術は、歯周外科治療の中で最も一般的に行われる手術です。
局所麻酔をした後、歯ぐきを切開して剥がし、歯根を直接目で確認できる状態にします。これにより、歯周基本治療では器具が届きにくかった深い歯周ポケットの底にある歯石や、感染した歯肉組織を徹底的に除去することが可能になります。
確実な歯石除去と清掃によって、歯周病の原因を根本から取り除きます。処置後は、歯槽骨の形を整え、歯ぐきを元の位置に戻して縫合します。この手術によって、歯周ポケットが大幅に浅くなる効果が期待できます。
失われた骨を再生させる歯周組織再生療法
歯周組織再生療法は、歯周病によって溶かされてしまった歯槽骨やセメント質などの歯周組織を、特殊な材料を用いて再生させる治療法です。
すべての症例に適用できるわけではなく、骨の失われ方など条件が整った場合に行われます。
代表的な方法には、メンブレンという特殊な膜でスペースを確保し、骨の再生を促す「GTR法」や、歯が生える際に重要な役割を果たすタンパク質を主成分とした薬剤を塗布して組織の再生を誘導する「エムドゲイン法」などがあります。これらの治療により、失われた支持組織を回復させ、歯をより長く安定させることが期待できます。
歯周ポケットを浅くする歯肉切除術
歯肉切除術は、薬の副作用や不適切な被せ物などが原因で歯ぐきが部分的に腫れあがり、歯周ポケットが深くなっている場合に適用される切除療法です。
この手術では、増殖した余分な歯肉を外科的に切除し、歯周ポケットを物理的に浅くします。骨の吸収は伴わず、歯ぐきの腫れのみが問題となっているケースが主な対象です。
歯周ポケットが浅くなることで、日々の歯磨きがしやすくなり、プラークコントロールが容易になるというメリットがあります。これにより、清潔な口腔環境を維持しやすくなり、歯周病の再発リスクを低減させます。
治療後の健康な状態を維持するメンテナンス
歯周病治療によって症状が改善した後も、健康な口腔状態を維持するためには定期的なメンテナンスが不可欠です。歯周病は生活習慣病の一側面も持ち、再発しやすい病気だからです。
治療が完了しても、日々のケアを怠ったり、定期的なチェックを欠かしたりすると、再び歯周病菌が増殖し、症状が再燃する可能性があります。メンテナンスでは、プロによるクリーニングと、セルフケアが適切に行えているかの確認を行います。
定期的なプロのクリーニングで再発を予防するSPT
SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)は、歯周病の再発を防ぎ、安定した状態を維持するための定期的なメンテナンスプログラムです。これは単なるクリーニングとは異なり、治療の一環として位置づけられています。
SPTでは、歯周ポケットの測定や出血の有無のチェックを行い、現在の状態を評価します。
その後、専用の器具やペーストを用いて、日常の歯磨きでは落としきれない歯の表面や歯周ポケット内のバイオフィルム(細菌の塊)を徹底的に除去します。
通院の頻度は、患者さんの歯周病のリスクに応じて決定され、通常は1ヶ月から6ヶ月に1回程度となります。
日々のセルフケアが歯周病予防の鍵
歯科医院での定期的なメンテナンスと並行して、最も重要なのが日々のセルフケアです。歯周病の再発を防ぐには、毎日のプラークコントロールが欠かせません。
治療中に身につけた正しいブラッシング方法を継続し、磨き残しがないように丁寧に行う必要があります。
特に、歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目はプラークが溜まりやすいため、歯ブラシだけでは不十分です。
デンタルフロスや歯間ブラシを必ず併用し、歯ブラシの届かない部分の汚れをしっかりと除去する習慣をつけましょう。このセルフケアの質を高めることが、長期的に安定した口腔環境を保つための鍵となります。
まとめ
歯周病の治療は、正確な検査による現状把握から始まり、進行度に応じて歯周基本治療、必要であれば歯周外科治療へと進みます。
治療によって改善した口腔環境を維持するためには、その後の定期的なメンテナンスが欠かせません。この一連の流れにおいて、歯科医院で行う専門的な処置と、患者自身が行う日々のセルフケアは、どちらも治療の成功に不可欠な要素です。
歯周病は自覚症状が少ないまま進行することが多いため、気になる症状があれば早期に歯科医院を受診し、適切な診断と治療を受けることが、歯を失わないために重要です。
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